昨年のボートレースメモリアルの優勝戦で白井英治と新田雄史がフライングを喫し、フライング明け半年は記念レースに出られず、SGは1年間の選出除外となった。
このフライングによって、ボートレース浜名湖に脅迫電話をかけた男性が逮捕されるなど、様々な出来事につながっている。
そして、この件をきっかけにしたのか、記念レースでのフライング厳罰化の動きが出てきた。
端的に説明すると、記念レースでの罰則が今までの倍になる。
もしSG優勝戦でフライングを喫したら、これからはSG2年間の選出除外、フライング明け半年間の記念レースの斡旋停止となる。
SG優勝戦に出てくる選手はA1の中でもトップオブトップ。
トップオブトップを2年間除外させるのは、本人も厳しいが、特定の選手のファンも苦しい。
ちなみにSG準優勝戦はこれまでのSG優勝戦と同じ罰則になると考えていい。
数千万円を手にするために多くのリスクを払えるかどうか、そこが問われる。
例えば、記念レースに復帰した峰竜太の場合、SGに復帰できるのは2023年10月のダービーから。
YouTubeでのイベントの関係で予想販売業者と交流し、結果的に処分が発表されたのは2022年2月。
実に1年半以上のSG選出除外の状況だが、2022年は4か月の出場停止の影響もあり、およそ3000万円ほどの獲得賞金にとどまった。
6点台後半で、SGにはあまりお声がかからないA1レーサー並になってしまう。
1億円以上稼げたかと思えば、SGや記念に出られないだけで一気に減収となる。
峰竜太の場合は自らの失態が原因だが、今後のSG優勝戦でフライングを切ったらどうなるかという指標としてわかりやすい。
しかし、これだけの厳罰になりながらも、トップ選手たちがスタートでギリギリを狙う姿勢は変わらないように思う。
例えば、SG優勝戦で罰則にビビってスタートを踏み込めなかったらファンから何を言われるか、自分ですら想像がつく。
相当なレッテルを貼られ、チキンや腰抜けレベルのことを当面言われ続けるだろう。
一方で、記念レースの優勝戦でフライングを切っても、ナイスファイトに近いことは言われる。
勇気を振り絞って踏み込んだという点が評価されるからだ。
この手の信頼はなかなか得られるものではなく、そして、1度失うとなかなか取り戻せない。
ファンからの信頼もそうだが、選手からの信頼にもつながってくる問題だ。
どの場面でもあの人は踏み込むと思われるか、奴は大事なところで遅れると思われるか、全く違う話である。
2年間の選出除外はファンも知っているから、そこでスタートを攻めたら、何してくれてんだよ!とはあまり思われないだろう。
選手生命を絶たれるレベルの罰則になっても、踏み込む人は踏み込むのではないだろうか。
罰則を理由に踏み込めない人は、その手前で終わっている人ではないかと思う。
罰則が強化されることでその効果がプラスに出るケースは、犯罪ぐらいではないだろうか。
分かりやすい例では飲酒運転。
とても驚愕するのだが、1960年代はたとえ飲酒運転をしても罰則がなかった。
飲酒運転の全面禁止はやりすぎという、にわかに信じがたい意見がそこそこあったようだ。
その後罰則は生まれるが、正直そこまでのものではなかった。
今のように罰則が強化されたのは、数え切れないほどの悲劇があったから。
今では飲酒運転1回で50万円の罰金を支払わされ、免許も取り消される。
飲酒運転がどんどん減っていったのは当然である。
厳罰で効果があるのはこうしたケースだが、心理学から見た罰の効果を色々と調べると、それだけではフライングは減らないように感じる。
一時期、相撲で待ったをした力士が罰金を科せられた時期があった。
1回の待ったで十両なら5万円、幕内力士は10万円が罰金、制裁金として科せられた。
ただ現在は罰金はなく、3回の待ったをした力士に対して審判部から注意をうけるにとどまっている。
結局、力士からしたら5万円10万円が大事ではなく、とにかく1つでも勝ち星を挙げたいのだ。
だから、待ったをしてでも有利に相撲をとりたい、そのためにいくらでも罰金を払う。
罰金があった当時はまだ相撲は人気があり、懸賞金も回っていた。
回収しようと思えばいくらでも回収できる。
1つの白星の重みを知る人たちが関取になっているのだ。
もちろん罰則強化も効果はあるだろうが、アメとムチでいうところのアメは必要ではないだろうか。
SG優勝戦の優勝賞金アップがアメなのかと言われると疑問で、どうせならボートレース全体でフライング撲滅を考える動きがあっていい。
先日、ボートレース宮島で行われたルーキーシリーズで実に9人がフライングを喫した。
お客さんですらいい加減にしろよと言いたくなる話である。
節間で全くフライングが出なければ賞金が出るというのは有名な話だが、連帯責任ではなく、個人でスタート事故がなければその賞金を出すのはアリだと思う。
そんな賞金ごときでフライング事故が減るかよという話だが、常に5着6着を並べる新人レーサーからしたらこういう賞金もありがたく、自重する選択肢は浮かぶだろう。
それでも踏み込むのがレーサーの心理ではあるのだが、ある程度効果はあるはずだ。
また、運営側が平均スタートの推奨タイムを設定するのも1つの手で、推奨タイム通りに走った選手にドカンと賞金を出すというのも面白い。
その上でフライングの罰則を全体的に強化するのであれば、いくらかは効果が出るのではないか。
例えば、SGなど記念レースの準優勝戦や優勝戦に、それまでタイトルとは無縁、ギリギリA1を保つような人物が残ったとする。
次いつ準優や優勝戦に出られるかわからないと思っていたら、破れかぶれでスタートを攻めても不思議ではない。
記念にさほど出ない選手からしたら、1回のフライング罰則30日もしくは35日程度で、痛くも痒くもない。
SG選出除外の期間が1年になろうが2年になろうが、普段は縁がないのだから関係ない。
記念には出られないのは痛手だが、記念だとテンでダメなA1選手はたくさんいる。
SG優勝戦などでフライングを出さないための施策に見えるが、ギリギリA1を保つ「無敵の人」はこれでは全く防げない。
ゴールデンレーサーを獲得した選手を対象とした施策ということにしても、その選手たちはメンツをかけ、踏み込んでいく。
今回の罰則強化は結局何も生まないのではないかと感じる。
事実、昨年のボートレースクラシック優勝戦での2艇フライングは11年ぶりの出来事だった。
しかも、フライングそのものも9年ぶりで、罰則の因果関係は本当にあるのか疑わしい。
フライング撲滅を目指すなら、アメを大量に与えた上で、期間1回目のフライングで60日、2回目で120日、3回目で180日、最大360日にした方がいいのではないだろうか。
ボートレーサーは1年以上のブランクがあってもすぐに第一線へ復帰できる。
最近なら重成一人や藤原菜希がそうだ。
あとは360日のペナルティーの間はやまと学校で訓練生と同じ扱いを受けて研修を行ったり、定期的に呼び出されては再教育を受けたり、あとは下っ端の雑用仕事、練習の参加義務などを科していけばいい。
その代わり、アメは大量に与えておけば、ファンはさほど騒がないのではないだろうか。
結局の話、アメとムチのバランスがあまりにも悪すぎるからこそ、反感を買うのである。
本当に将来のことを考えているのであれば再考するべきだろう。
目先の金を追ってしまうのはファンはもちろんのこと、自治体や競走会、振興会も同じなのだ。